正常圧水頭症
正常圧水頭症とは
脳や脊髄は髄膜(くも膜)という膜でできた袋で、この中を満たすお水の中にぷかぷか浮いています。このお水のことを脳脊髄液と言います。脳脊髄液は脳脊髄への栄養因子やホルモンの運搬、老廃物の排泄、外力の緩衝など様々な機能があると言われています。通常、脳脊髄液は適切な量になるように産生と吸収がうまく調整されていますが、様々な原因で脳脊髄液が増えてしまいます。
脳脊髄液が増えて脳室(脳の中にある髄液がたまっているところ)が拡大した病態を水頭症と言います。
正常圧水頭症とは髄液圧が正常のものをいい、脳の圧が上がらないため命に係わることはありませんが、生活に影響する症状を起こしてきます。正常圧水頭症は、「先天性」「二次性(くも膜下出血後、髄膜炎後、外傷後など)」「特発性」「家族性」に分類されています。
特発性とは明らかな原因がないのに水頭症を来すもので、高齢者に多く見られます。年間10万人あたり120人程の方がこの「特発性正常圧水頭症」になると言われていますが、実際受診される患者は発症者の10%未満といわれており、診断されていない患者さんが多いとされています。



正常圧水頭症の症状は?
正常圧水頭症になると、「歩行障害」「認知障害」「排尿障害」が見られます。
「歩行障害」は①歩幅が小さく、②足を挙げないすり足になり、③歩幅が広くなることが特徴的です。歩行は方向転換時に特に不安定になります。
「認知障害」は前頭葉機能低下に密接に関連し、初期には注意機能や作動記憶が障害されます。
また語想起が障害され、単語が出てこなくなります。
「排尿障害」は膀胱の活動が活発になり、おしっこを我慢できず尿漏れや尿失禁を来すようになります。
特発性正常圧水頭症では、歩行障害が最もよく起こり(94~100%)、次いで認知障害(78~98%)、排尿障害(60~92%)がみられます。全ての症状がみられるのは12%に過ぎません。また、病的反射(口とがらせ反射や眉間反射など)や上肢の機能低下が起こることもあります。
特発性正常圧水頭症の診断は?
特発性正常圧水頭症の診断アルゴリズムを用いて診断していきます。頭部CTやMRIで脳室の拡大がある場合は、特発性正常圧水頭症が疑われます(Suspected iNPH)。
この患者さんが歩行障害、認知機能の低下、排尿障害のいずれかがあり、脳室拡大をきたす他の脳疾患が否定された場合は、特発性水頭症の可能性が高くなります(Possible iNPH)。
このような患者さんにタップテストを行います。タップテストとは、背中から脳脊髄液の一部を抜き取り、症状の改善があるかないかを判断するテストです。局所麻酔で簡単に行うことができます。このテストで症状が改善した場合、特発性正常圧水頭症の可能性がさらに高くなり、患者さんおよびご家族と相談し、シャント手術を受けるか否かを決定します。
不思議に思われるかもしれませんが、実は特発性正常圧水頭症の確定診断は、このシャント手術で症状の改善があったことで初めてなされるのです。

特発性正常圧水頭症の治療は?
特発性正常圧水頭症はお薬では治らない病気で、上記で説明した通り、シャント手術を行います。
【治療方法】
特発性正常圧水頭症の手術方法は?
脳脊髄液を持続的に排出する機械を植え込む手術です。脳脊髄液腔から腹腔内(お腹の中)へ脳脊髄液が流れるように管を挿入します。腹腔をつくる腹膜は水をたくさん吸収するのでお腹の中にお水が溜まることはありません。管には流量を調整するバルブがついており、術後も皮膚の上から髄液の流れる量を調整できます。
背中に約3cmの皮膚切開をして、腰椎穿刺を行い、髄液腔にカテーテルを挿入し、側腹部までカテーテル、バルブを皮下に植え込みます。側腹部に約4cmの皮膚切開をし、腹腔内にカテーテルを挿入し、全てのシステムを皮下に埋めこみ、傷を閉じて終了です。

【治療期間】
手術前日に入院し、手術後は入院したお部屋に戻ります。手術翌日から食事、歩行開始します。入院中に歩行の状態など評価を行い、手術後7日目に退院です。通常、入院期間は9日間です。
術後しばらくはこまめに外来通院が必要です。状態が落ち着いた後も通院可能であれば、半年から1年毎に経過を評価します。
【費用】
・ 入院治療にかかる費用は、「手術費」に加えて、「入院費」がかかります。
・ 約1週間の入院でかかる自己負担額は、3割負担で27万円前後、1割負担では約7万円です。
・ 高額療養費制度を利用することで、自己負担額は10万円前後になることが多いです。
・ 限度額適用認定証交付申請をすれば、限度額以上の支払いはありません。
詳しくは、ご自身が住んでいる市のホームページでご確認ください。
【リスク、合併症】
手術により以下の合併症を起こす可能性があります。
・ 出血:出血は少量ですが、時に手術の傷の下に血が溜まることがあります。
・ 感染:手術に伴い、創部やシャントバルブやチューブに感染を起こす可能性があります。抗生剤治療で感染が制御できない場合は、埋め込まれたシステムを取り除かなければならないことがあります。
・ 神経麻痺:背中から刺したチューブが神経を刺激して、麻痺や痛みを出すことがあります。
・ 術後の創部痛:痛みはそれほど強くありませんが、痛みはあります。
・ シャント機能不全:埋め込んだシャントが上手く機能しなくなることがあります。その場合は、新しいシャントシステムに入れ替える必要があります。
・ 慢性硬膜下血腫:シャントで想定より多くの水が引けた場合、頭の中に血が溜まることがあります。
・ その他:予測し得ない合併症や既往疾患によってはそれらの悪化が起こることがあります。




