症例

手根管症候群

手根管症候群とは

手根管とは手根骨と横手根靱帯とからなるトンネルのことで、この中には正中神経をはじめ、手の指の屈筋腱が合計9本通過しています。手根管症候群とはこの部位に起こる、さまざまな原因によって生じる正中神経障害のことを指します。
手根管症候群は最も頻度の高い単ニューロパチーといわれています。海外の報告では、成人女性の約9%、男性の0.6%がこの病気にかかっているといわれ、年間10万人当たり60~120人(女性)、35~60人(男性)が新規に発症するといわれています。日本でも同等数の患者がいると推定されています。
手根管の内腔を狭める因子(主に屈筋腱の炎症、腫瘍、ガングリオン、透析中のアミロイド沈着など)、神経の脆弱性(糖尿病性神経症など)、全身性要因(妊娠、浮腫など)などが原因としてあげられます。これらが原因となり、手根管内圧が上昇することで、神経症状が出現します。
手根管症候群になると、特徴的な手の指、掌のしびれが出てきます。下の図にあるように、正中神経は親指の内側、人差し指、中指、薬指の感覚を支配しており、これらの部位に痺れを生じます。痺れは夜間から明け方に強くなり、手を振ると痺れが軽くなるのが特徴的です。湯呑が持ちにくくなったり、OKサインが作りづらくなったりします。
進行すれば、母指球筋と呼ばれる親指の付けの根の筋肉が痩せて、コインをつまんだり、ボタンを留めたり、する動作ができなくなります。

 

手根管症候群の診断

外来では上記の症状の有無の確認に加え、ティネル兆候(手首を叩くと指先に痺れが走る)、ファレンテスト(手首を曲げて左右の手の甲を合わせて保持すると痺れが出現する)があるかどうか検査します。これら症状、検査の結果で手根管症候群が疑われれば、神経伝導速度検査を行います。下の図にあるように、手のひら側の指の神経は主として正中神経と尺骨神経が支配しており、両者の神経を電気刺激して、指の運動神経や感覚神経の状態を評価します。正中神経のみ反応が鈍くなっていれば、手根管症候群と診断できます。

 

手根管症候群の治療は?

手根管症候群と診断されれば、まずは消炎鎮痛剤やビタミンB12製剤などの飲み薬を開始し、また局所の安静のため運動や仕事の制限を行います。時にステロイドなど抗炎症作用のある薬剤を手根管内腱鞘内に注射します。それでも症状が改善しない場合は手術を行います。また、診断時にすでに母指球筋が痩せてしまっている場合は早期の手術を考慮します。

 

手根管症候群の手術治療は?

【治療内容】
当院では、小切開による顕微鏡下の手根管開放術を行っています。手の平に約2.5cmの皮膚切開を行い、手掌腱膜の直下にある横手根靭帯(屈筋支帯)を切断します。このすぐ下にある正中神経が中枢および末梢側に十分に除圧されたことを確認して、縫合して手術を終了します。当院ではターニケットと呼ばれる止血帯は使用せずに手術を行っています。ターニケットは術中の出血のコントロールには優れていますが、クラッシュ症候群や末梢神経障害に加え、ターニケットペインと呼ばれる圧迫解除後の痛みの発生も起こりうるため、使用しないようにしています。

【治療期間】
本来は日帰り治療ができる手術です。しかし、当院は手術室が1つしかないにもかかわらず手術数が比較的多く、手術開始が夕方になることが多いです。手術は局所麻酔で行いますが、この局所麻酔が痛みます。手は神経が集中している部位であり、麻酔の注射が痛いのです。この痛みを感じないよう局所麻酔の直前のみに鎮痛剤と鎮静剤の注射を行います。これらのお薬はすぐに効果がなくなりますが、長く薬の作用が残る患者さんもおり、前述のように夕方から手術が始まることを考慮し、手術当日は一晩入院で経過観察しています。手術当日に入院し、手術後は入院したお部屋に戻ります。手術当日から食事、歩行開始します。翌日創部をチェックし、午前中に自宅退院します。通常、入院期間は2日間です。術後1週間後に外来で抜糸を行います。手術の効果がでるまで術後3~6ヶ月かかるともいわれており、少なくとも6ヶ月は定期的に外来通院が必要です。症状が消失あるいは症状固定状態となれば外来診療も終了します。

【費用】
・ 入院治療にかかる費用は、「手術費」に加えて、「入院費」がかかります。
・ 約1週間の入院でかかる自己負担額は、3割負担で3万円前後、1割負担では約1万円です。
・ 限度額適用認定証交付申請をすれば、限度額以上の支払いはありません。
詳しくは、ご自身が住んでいる市のホームページでご確認ください。

【リスク、合併症】

手術により以下の合併症を起こす可能性があります。
・ 出血: 大出血を起こすことはありませんが、術後出血の可能性があります。
・ 感染: 手術に伴い、創部に感染を起こす可能性があります。
・ 神経麻痺: 正中神経領域の運動に障害が出る可能性があります。
・ 術後の創部痛: 手術後に手の痛みが残ることがあります。
・ 術後の神経症状の悪化: 術後に神経症状が悪化する可能性があります。
・ その他: 予測し得ない合併症や既往疾患によってはそれらの悪化が起こることがあります。

ページトップへ戻る